仮想通貨のICOが大量生産されています。その中でトークン1つ1つを精査するのは難しくなっています「ICOホワイトペーパーの読み方。6W3Hフレームワークで読めば理解が進む」と題したICOホワイトペーパーの読み方について前編・後編と解説してきました。
今回は実践編として6W3Hを織り交ぜながら、あるICOプロジェクトのホワイトペーパーを読み進めます。テーマとして選んだのは、たまたま広告で見かけたトークン「SMSCOIN」です。
ホワイトペーパーを通じて最終的に判断するべきことは当然ですが、「参加」「不参加」の意思決定と、「参加」の場合は「いくら」投資するかです。
ICOホワイトペーパーで紐解くSMSプロジェクトの全体像
- ICO:スピードマイニングサービス
- オフィシャルサイト:https://smscoin.jp/
- ホワイトペーパー:https://smscoin.jp/sites/default/files/whitepaper_ja.pdf
- トークン:SMS
このプロジェクトの全体像と存在意義はどこにあるのでしょうか。アジア最大のマイニングセンターを作るためのICOと書いてあります。
「投資家の皆さんからお金を集めて北海道にアジア最大のマイニングセンターを作ります。マイニングで得た報酬を、配当として投資家の皆さんに分配します」
最近はGMO・DMM・SBIがマイニング事業にに参入し活況で、事業領域としては悪くないと思います。また、ビットコインに限らず時価総額の大きなアルトコインを複数マイニングすると記載されています。
電気代が高い北海道でマイニング事業
つづいで、大規模な運営拠点が必要でしょうから、場所の視点を見てみましょう。目標はアジア最大級、拠点は日本、北海道だそうです。ふむふむ北海道ですか。気がかりです。マイニングに必要なのはヘルメット被った労働者ではなく、高性能マシーンですね。
マシーンは何を動力とするか、電力ですね。つまりマイニング事業の費用構造にインパクトを与えるのは電気代です。世界の主要マイニング事業者、通称マイナーに中国企業が多いのは中国の電気代が安いからです。アジア最大級のマイニングセンターを日本に、またよりによって日本で一番電気代が高い北海道を拠点とする点は少し引っかかります。
日本の電気代の比較
収支計画が補助金頼み
仮に電気代が高くても収支が合えば良しとしましょう。そのあたりも考慮しているようで、こうあります。
日本の北海道は東京から遠く離れた地方で寒地であり、拠点として適しております。また、過疎化が新興している事情もあり、県内で事業を行うと補助金が出ます。それらと電気代は半分程度相殺される予定です。
補助金。起業支援や新規事業支援などで自治体から補助金が出ることはありますが、補助金には予算上限があります。マイニングが順調に進んだとしても常に電気代の半分を賄えるほどの補助金が出続けることはないでしょう。
さらに、中小企業の支援補助金は各案件につき上限100万円程度の予算規模です。初期購入の500台のサーバーの電気代から考えると補助金に頼ることはできないはずです。マイニング事業にとって負担の大きい電気代を、なんの確約もない補助金に依存するプロジェクトであることがわかりました。
マイニング事業の費用の15%が電気代、命綱はやっぱり補助金です
ホワイトペーパーを少し読み進めて(p10)いただくと、収益の配分チャートがあります。
1年めで収益が約3億円、その15%が電気代として計算しています。15%ということは電気代が初年度4500万円です。
その半分を補助金に、つまり2000万円以上を補助金で賄うという話ですね。仮に、補助金適用済みの電気代が15%としたら補助金は4500万円にのぼります。補助金が命綱を握っているプロジェクトです。
10ページ目にあるプロジェクト収支計画
2年目 | 3年目 | 4年目 | |
---|---|---|---|
台数 | 4,653 | 5,624 | 6,811 |
台数増加率 | - | 121% | 121% |
月間最低利益 | 371,000,000 | 450,000,000 | 545,000,000 |
利益増加率 | - | 121% | 121% |
1台当たり利益 | 79,734 | 80,014 | 80,018 |
次に収支計画から2点、確認しておきましょう。
- 伸び率の根拠は何か
- 伸び率の変動要因は何があるか
まず、この伸び率を計算すると、単純に20%再投資するから利益も20%増しというEXCELを横に引っ張っただけの計算です。あまり深い考察は無さそうです。さらにマイニング専用マシーンなら、新型が出た瞬間に採掘率は落ちるでしょうからマシーン1台あたりの利益額が3年間一定というのが気になります。
つぎに、変動要因。これが重要です。日本円表記のため気づきにくいですが、マイニングでマイニングセンターが得るのは仮想通貨であって、日本円ではありません。また事業内容も時給1000円の単純労働とは違います。
どれだけマシーンを動かしても、採掘のディフィカルティ(難易度)や仮想通貨の価格変動を考慮すると、採掘しても日本円価額0円なんてこともあります。とても月間収益を出すような代物ではないと思います。
トークンセールの事前参加が有料
トークンセールには有料の入会が必要です
ICO参加の事前登録はよくありますが、有料会員登録です。
入会には、0.16ETH(イーサリアム)
継続には、0.16ETH(イーサリアム)
さらに
退会には、0.16ETH(イーサリアム)
各プロジェクトオーナーが、ICO投資家の争奪戦を繰り広げるなか、課金システムを導入してくるとは強気ですね。トークンの売買は仮想通貨愛好家団体のメンバー同士だけで、メンバーは上限4万人。入会金が必要で、退会するときもお金を払うわけですね。
顔の見えないプロジェクトオーナー
ホワイトペーパーにはプロジェクトオーナー、技術者、アドバイザーなどプロジェクト関係者の記載がありません。各国で規制強化が進んでいることは承知のはずです。海の物とも山の物ともつかないICOを円滑に進めるには信頼しかないことは百も承知のはずです。そして、その信頼を勝ち取るために情報発信は欠かせないことです。WHOの視点が欠けたホワイトペーパー、これは大きなマイナス要因です。
というわけで、会社概要を辿ってみました。このプロジェクトオーナーは株式会社スピードマイニングです。ちょっと調べてるといろいろ突っ込みどころが多いのですが、なによりプロジェクトの要、技術リーダーの経歴が、怪しいですね。
仮想通貨関連プロジェクトの技術チームリーダー
AAI設計者兼AI研究者。総合大学大学院総合大学にて情報学の博士号を取得。フィンテック、およびソフトウェア開発においても幅広い経験と知見に加え、情報検索、データマイニングに関する方法論、その他の重要な技術革新に基づく視覚的な検索に関する研究。
SMSのICOは不参加
6W3Hの視点を織り交ぜながら、ホワイトペーパーを読み進めてきました。結論としては「不参加」です。どのような読み方をしても、怪しいです。プロジェクトメンバーの顔が見えない、補助金に頼った事業計画、現時点のプロジェクトは、購入済みと報告されているマイニングマシーンだけです。深く考えるまでもなく不参加です。
タイトルには詐欺と記載しましたが、あくまでも個人的な見解です。投資判断はご自身でしっかりと行って下さい。