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ICOホワイトペーパーの読み方。6W3Hフレームワークで読めば理解が進む:後編

仮想通貨ICOのホワイトペーパーの読むために、6W3Hの思考フレームワークを当てはめてみようという企画の後編。後編では、理由(WHY)、方法論(HOW)、量(HOW MANY)、額(HOW MUCH)の視点でホワイトペーパーを読んでいく。前編「ICOホワイトペーパーの読み方。6W3Hフレームワークで読めば理解が進む:前編」を読んでいない方は、前編からどうぞ。

6.ホワイトペーパーから理由を探る(WHYの視点)

ホワイトペーパーから探るべき「理由/目的」は2点

プロジェクトの存在理由
なぜこのプロジェクトが始動したのか、課題感などを抽出する
なぜICOをするのか
言い換えればお金の使いみち、予算配分(Allocation)などを把握する

1.ホワイトペーパーから読み解くプロジェクトの存在意義

まずはQchainの存在意義。どのホワイトペーパーでも一番重要な視点だ。ここでスッキリしない限りは投資対象すべきじゃない。得体の知れないものに投資するほど余力がない、わたし。ホワイトペーパーにはこう書かれている。

Qchainは現在のデジタル広告に欠けている「公正さ・利便性・プライバシー」を解決する。

わたし、ホワイトペーパーのこの一文だけでプロジェクト全体を理解できるほどの大局観は持ち合わせてない。なので、1つブレイクダウンする。それぞれの経済主体がなぜこのサービスやプロジェクトを利用するか、つまりインセンティブ設計を吸い上げてみる。1つブレイクダウンすることで、WHOM(誰のため)視点の続きとなる。

パブリッシャーのウェブサイトに広告を表示する場合、現在の業界標準である Google AdSense はホストとして広告主の支払いから32%と高額な費用を差し引くため、パブリッシャーに残るのは僅か68%である。Qchainの場合、当社はホストの取り分を大幅にカットし、例えば収益の 5 〜 20%とすることを想定している。そして、Qchain 自身がトランザクションを推進するために、1%のインターチャージフィーを受け取る。パブリッシャーは 残りの収益を受け取ることになる。

要は、Googleが得ている手数料をパブリッシャーに還元しようじゃないかとという話。ただ、Googleは広告主とパブリッシャーを無造作に引き合わせて32%を得ているわけではないだろう。32%は何かの対価である。

それは高性能な配信アルゴリズム。広告主に適切なパブリッシャーを、パブリッシャーに適切な広告主を引き合わせ、広告効果の高いユーザーを広告主のもとに誘導する。このアルゴリズムに広告主は広告費を払い、パブリッシャーはそれなりの収益を得ている。

Googleの手数料32%の源泉となるこの広告配信のアルゴリズムにどう対抗しようというのか、それは次のHow視点につなげて考える。後述する。

2.ホワイトペーパーから読み解く資金調達後の資金用途

次に、WHY視点の2点め、なぜお金が必要なんだろうか、得たお金で何するの。資金調達の使用目的である。Qchainの資金のアロケーション、使用用途はこうだ。

Qchainの調達資金の予算配分

Qchain資金用途

  • 44% の資金はチームメンバーの対価と継続的な開発のインセンティブのため使用
  • 20% はアプリケーションの高速化サポートのため、開発者増員用に使用
  • 11% は研究開発費、サーバー費用などの技術的なインフラ費用に投資
  • 10% は臨時予備として保有
  • 5% は労働環境のために使用
  • 5% はマーケティング力拡大のため、マーケティング担当者、プロダクトアンバサダー、コミュニティマネージャ ーの増員に投資
  • 5% はリーガルコストとして保管

資金調達したお金をどう使うかは、最終的にはプロジェクトオーナー次第。だが、その予定を聞いておこう。どのホワイトペーパーにも書いてある(書いてなかったら、それは詐欺)。
重要なのは「予算配分比率」。各項目と配分比率に正解はない。ただしプロジェクト内メンバーへの分配が50%を超えてくると、怪しくなってくる。ICOゴールかと突っ込んでおこう。

WHYの視点では以上の2つ「プロジェクトの意義」「資金使途」を考えればいい。ただ、オプションでもう一つある。これはあなたの得意領域ならではの視点である。それは「果たして本当にブロックチェーン技術が必要なのか」という視点だ。

ICOバブルに沸いているときは誰の目にも見えてこない「ブロックチェーン技術神話への懐疑」である。例えばQchainでいうとGoogleが得ているマージン32%を、ブロックチェーン技術で置き換えられるのかという点だ。広告業界では、広告代理店が広告主とメディアを結び対価としてマージンを得る。

これは広告業が生まれた瞬間から変わらないビジネスモデルである。そこにブロックチェーンを介在させたとしても、ビジネスモデルが変わるわけではない。玉石混交のICO業界、ブロックチェーン技術という言葉だけに騙されてはいけない

例えば、

イーサリアムのブロックチェーン技術を利用したC2Cコマースにおける物流業界の課題を解決するIoTデバイス向けトレーサビリティプラットフォーム。11月からクラウドセール開始。

このクラウドセールに伸るか反るか。何となく流行ってそうな感が出ている、気がする。実はわたしが本日のニュース記事のタイトルを適当にピックアップして作った造語である。こういうものに騙されてはいけない。

7.Qchainの方法論(HOWの視点)

Qchainのホワイトペーパーで掘り下げるHowの視点には何があるか。今回は「どうやってGoogleの配信アルゴリズムに勝負するのか」というビジネスモデルの方法論を整理しておきたい。なお、資金調達の予算配分(allocation)をここの視点で整理してもよい。その場合は「調達資金をどう配分(How to allocate)するか」となる。

ホワイトペーパーには、こう書いてある。

広告主とパブリッシャーがよりダイレクトな関係を築けるよう促進する。当社のマーケットプレイスでは、広告主は広告を掲載できるウェブサイトを個別に見られるようになる予定である。また、広告主とパブリッシャーはお互いに直接メッセージを送ることもできる。

これまで、Googleが担ってきた広告主とパブリッシャーの「自動的な」マッチングを、どうぞ両者「ご自身で」やって下さいということだ。Googleが提供するのは許嫁(いいなずけ)、Qchainが提供するのはお見合い会場といったところか。

メディアバイイングのオートメーションにストップをかけ、広告主とパブリッシャーの間に自由なコミュニケーションパスを通す。そしてマッチングが成功した暁には、ブロックチェーン技術を使った承認作業を経て、広告取引が成立するというモデル。

HOWまで掘り下げてみると、Qchainが目指そうとしている社会が想像できる。Googleと言えば”自由”が似合いそうだが、Qchainチームからするとそうではない。彼らから見ると、デジタル広告業界において、巨大な仲介人Googleはブラックボックス化した中央集権に映っているのだろう。

メディアバイイングがオートメーション化され、Googleのブラックボックスを通してしか広告主とパブリッシャーの広告取引が成立しない。そんなGoogleのアルゴリズムを打開しようとしたのがQchain。ある意味、原点回帰に見える。「広告主」と「パブリッシャー」の直接的なコミュニケーションを取るというのだから。

この視点、最初にホワイトペーパーの読む限りでは懐疑的だった。広告主が好きでGoogleを選んでいるわけだし。ところが、事情は違ったようだ。世界の2大広告主であるP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)とユニリーバがデジタル広告費を削減している。

世界の広告主(広告出稿額)ランキング

世界最大広告主
引用元:Marketing Interactive

事の発端は、Google参加のYoutubeで過激派テログループの動画コンテンツの隣に広告が表示された問題。それに続いてAT&TとVerizonがYoutubeへの広告出稿をボイコットした。

ブランドは広告のバイイングの自動化により注意を払うべきだと繰り返し、我々は、デジタル広告のサプライチェーンの不透明性を解消する必要がある

とユニリーバは言う。なるほど、Qchainは、広告主サイドの強い要求(透明性)をブロックチェーン技術を使って解決しようとする、そういう目的があるのか。

8.トークン発行数はどのくらい?(HOW MANYの視点)

ICOホワイトペーパーにおけるHowManyとは、トークンの発行数が重要。発行数∞とあれば、きな臭いぞ。発行上限を設定していないICOは詐欺と呼ばれてもおかしくない。株式公開にしても、上限なき発行がどのような結末を迎えるか想像に難くない。

さてQchainにおける発行数は、ホワイトペーパーではこう書いてある

EQT(Ethereum Qchain Token)とXQT(XEM Qchain Token)の2種類のトークンが発行されて、2つ合算して最大750,000,000 トークンが発行される。各トークンは375,000,000ずつが発行されることになります。そのうちの60%がクラウドセールで発行。

したがって、

最大 225,000,000 EQC と、225,000,000 XQC トークンが各クラウドセールで販売される。

9.トークン価格はいくらか(HOW MUCHの視点)

仮想通貨のホワイトペーパーに直接的な価格が書いてあることは少ない。実際に購入する際には、それぞれのオフィシャルサイト等で価格情報を確認。

Qchainプレセール価格情報

  • BTC (1 BTC : 150000 EQC/XQC) Minimum: 0.2 BTC
  • ETH (1 ETH : 8000 EQC) Minimum: 2 ETH
  • XEM (1 XEM : 8 XQC) Minimum: 2000 XEM

同時期/同業界の直近のICOにも目を配っておこう。最近のICO価格と上場後の初値をいくつかピックアップ。取引所への上場後のICO価格割れもある一方で、しばらくたって高値更新はよくある。ICOで買わなくとも、ホワイトペーパーをじっくり読んで上場後に買うもよし。

OmiseGo(オミセゴー)
ICO価格:1OMG=0.293ドル
初値:0.522ドル(+78%)

Bancor(バンコール)
ICO価格:1BNT=3.864ドル
初値:4.49ドル(+16%)

MobileGo(モバイルゴー)
ICO価格:1MGO=0.758ドル
初値:2.45ドル(+223%)

以上。

ここまで、一般的には6W3Hのような思考のフレームワークは「書く技術」であるけれど、それを逆手にとって「読む技術」として使ってきた。ホワイトペーパーを5W3Hを意識して読んでいけば、仮想通貨投資に必要なある程度の情報は網羅できる。

トークンを購入することの意義

最後に、トークンを手にすることの意味を考えたい。ICOは株式のIPOとは違う。IPOは出資して、株主となり権利を得る。権利は何か?原則は以下の3つ。

  • 株主総会の議決権(経営に参加する権利)
  •  配当金など利益分配を受取る権利
  •  会社が解散した際に、残った資産を受取る権利

一方、ICOで得たトークンを持っていても、威張れない。基本的には権利はない(一部には権利や配当が存在するICOもある)。基本的にはプロジェクトがポシャったら、無価値なトークンがデジタル資産として手元に残るだけ。トークンを取得する対価として支払った仮想通貨分はお蔵入りだ。

配当もない、権利もない、キャピタルゲインを狙うだけ。現状、毎日世界のどこかでプレセールしている。焦るなかれ、ホワイトペーパーをしっかり読んでからでも遅くはない。