ICO参加にホワイトペーパーは必読
ホワイトペーパーは、ICOで唯一といっていい発行主体公式のプロジェクト概要書。ICO後もアルトコイン売買の銘柄選定の材料となる。大切な資金を手放して未知のトークン(仮想通貨)に突っ込むわけだから、ホワイトペーパーくらいは理解したい。でも仮想通貨のホワイトペーパーを熟読し正しく理解している人はごく僅かだろう。
If you’re an investor, you’re looking on what the asset is going to do, if you’re a speculator, you’re commonly focusing on what the price of the object is going to do, and that’s not our game.
投資家は資産に投機家は株価に目を向ける。
財務諸表や損益計算書、アニュアルレポートの隅から隅まで目を通すのが、やるべきゲーム。こう指摘するのは、このゲームの王者ウォーレンバフェット氏。うむ、納得。では、こう読む。
ホワイトペーパーを、読めば投資家、
読まずに投機家、読んでも結局ギャンブラー。
ICOに参加するにあたりホワイトペーパーに目を通すべきという意見には、賛成だ。
だけど読めない。なぜならホワイトペーパーを理解して判断するには7つの高いハードルがあるからだ。
ホワイトペーパーを読まない、読めない、読みたくない
- ホワイトペーパーの大半が英語という言語の壁
- 株式IPOと違い、定型的な項目がなく不明確さが残る
- 法規制の対象ではないため情報が不確実
- 歴史が浅いのでホワイトペーパー間の比較がしづらい
- 対象とする市場や社会構造が複雑で知識が追いついていない
- 技術的な背景がないと完読できない
- ボラティリティが高く、将来のシミュレーションが不安定
これらの高い壁に阻まれて、ホワイトペーパーに目もくれず、TwitterとFBで賑やかなコイン探しに走るのだ。まるで、あの店がイベントだ、あの台が出るらしいと聞いてパチスロするのと変わらない。
VUCAの時代に生まれた仮想通貨
このままではICOはギャンブルだ。それは嫌だ。だからホワイトペーパーを読む。
これらの課題、目を細めれば見えてくる。まるでVUCAじゃないかと。これら7つの課題は、VUCAの時代にふさわしい課題なのだ。VUCAの時代を、味わおう。
VUCA時代のリーダー像:生きていくのは大変だ
仮想通貨はまさにVUCA時代の寵児。ホワイトペーパーを読むべき状況にあることこそが貴重なVUCA時代の経験だ。軽々と国境を超えてきた御年10歳の仮想通貨に投資しようとする態度に、自画自賛しようじゃないか。ICO万歳、VUCA万歳だ。
こんな不安定で複雑な仮想通貨ICOに資金を投入するにあたって、ここは原点回帰してホワイトペーパーを読み込もうではないかという、そういう提案だ。
ホワイトペーパーの読み方:6W3Hで情報整理
原点回帰とはなにか、児童文学『ジャングルブック』著者に端を発するフレームワーク「5W1H」でホワイトペーパーのエッセンスを抽出して咀嚼することだ。
だれもが知ってる5W1Hを使って、得体の知れないICOをクリアにする。実は、このフレームワークは意外なほどよく使える。多いと数十頁になるホワイトペーパーを5W1Hを使い1枚にまとめることができる。また、各ホワイトペーパーの共通点や相違点が見えてくるのでトークン間の比較ができる。
なお5W1Hでは不足しがちで、HowMany(いくら:量)、HowMuch(いくら:金額)、Whom(誰に)を追加した6W3Hを使ったほうが過不足なく構造化できる。
6W3Hは、こういうことだ。(太字は5W1H)
- Who:誰が(“主体”を問う)
- Whom:誰に(“相手”を問う)
- When:いつ(“時期”を問う)
- Where:どこで(“場所”を問う)
- What:何を(“内容”を問う)
- Why:なぜ(“理由”を問う)
- How:どのように(“手段”を問う)
- How many:どのくらいの数で(“量”を問う)
- How much:いくらか(“金額を問う)
この6W3Hのフレームワークを、仮想通貨ICOのホワイトペーパーの読み方に当てはめると、こうなる。
6W3Hに当てはまりがいいトークンだからと言って、資金調達に成功するという意味ではない。ただ、投資対象の不確定要素が消えるのは精神衛生上にもよい。
”Risk comes from not knowing what you’re doing.”
自分が知らないものに投資すると過大なリスクが生じる。ITバブル時に1セントも投資しなった再びのバフェット氏。
なお、ほぼ全てのICO案件にホワイトペーパーが用意されている。手元にホワイトペーパーを用意しながら読み進めてほしい。わたしは手元に広告系仮想通貨「Qchain」のホワイトペーパーがあったので、6W3Hを使って当てはめてみる。話の筋を良くするため、6W3Hの順番は適宜入れ替える。
今回の題材として使うプロジェクト「Qchain」
(参考)ICO情報サイトリスト
1.このプロジェクト(Qchain)は何であるか(Whatの視点)
クレヨンで説明できないアイデアには投資するなという教えの通り、Qchainが何であるかを一言で。
Qchainが目指すのはGoogle Adsenseをベンチマークとした、より安い手数料、高い透明性を確保した広告ネットワークサービスとある。
GoogleのAdsenseは高い手数料によって広告主もパブリッシャーも辟易してるぞと、配信アルゴリズムがブラックボックス化しててメディアと広告主の風通しが悪いぞと、ブロックチェーンで透明性を高めてやるよ安価でなと。そういう広告ネットワーク開発のプロジェクト。
Googleのオンライン広告市場のプレゼンスの高さ
Google(中央緑色)の利益の90%近くが広告収益
2.誰がプロジェクトオーナーなのか(WHOの視点)
ありていに言えば、何ごとも最後は人である。あなたの大切な資金を誰の手に委ねるのか、人となりは知っておきたい。ここではホワイトペーパーからトークン発行主体、プロジェクトオーナー情報を吸い上げる。
どんなバックグラウンドを持ったメンバーで構成されているのか、技術チームの過去実績を抽出し、さらにホワイトペーパーから一歩外へでて、LinkedInなどでプロフィールチェックをしておこう。
たまにこのWHOの視点が抜けているホワイトペーパーがある。限りなく黒に近いグレーと見なそう。投資家に顔を見せないプロジェクトに誰が出資するのか。
あとコアメンバー以外では、アドバイザリースタッフをチェックしておきたい。例えば、OmiseGo(オミセゴー)のICOでは、イーサリアム(Ethereum)の開発者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏がアドバイザーだったこともあり大きな話題となって資金調達に成功した。
- 会社:Qchain
- 創業:2017年1月
- CEO:Wally Xie (LinkedInプロフィール)
- 拠点:米国
- チーム体制:約10名
3.誰のためのプロジェクトであるか(WHOMの視点)
このプロジェクトは誰に役立つのか、直接的に影響を及ぼす経済主体を整理しておきたい。
Qchainの経済圏に登場するのは3つの経済主体、つまりQchainから見るとサービスを提供する相手となる。Google Adsenseをベンチマークしていることを考慮すると、
- 広告主:Googleの既存顧客
- パブリッシャー:メディア事業者やブロガー
- ホスト:インプレッションやクリックの正当性を評価する審判役(採掘者:マイナー的存在)
このホストというのが新しい。クリックやコンバージョン(広告を見たユーザーの行動)の正当性を承認すると同時に、”十分なリソースがある場合、コンテンツ配信サーバーとして機能”するようだ。
この3主体はなぜGoogleAdsenseではなくQchainのサービスを利用するのかという疑問が湧く。それをこのWHOM視点で吸い上げても良い。或いはWHYの視点で取り上げるもよし。いずれにせよ、このフレームワークの内部で完結させることが重要だ。ここでは、WHYの視点で取り上げる。
4.このプロジェクトの時間軸(WHENの視点)
”いつ”といっても色々ある。ビットコインが生まれた2008年、トークンセールの終了日といった時点を整理するもよし。競合トークンの価格推移を時系列で追うもよし。
ここでは、現在(2017/10/19)を起点として、「過去」と「未来」で時間軸を二分割、対象を「組織&プロダクト」と「ICO」で二分割、これで四分割。最後に現在を考慮することで、ホワイトペーパーの時間軸を6つに整理することができる。
A:Qchain組織/プロダクトの過去
- 2017年1月 創業
- 2017年3月 プロジェクト開始
- 2017年10月 α版リリース
B:Qchain組織/プロダクトの未来
- 2017年10月トークンローンチ
- 2017年年末 β版リリース
- 2018年 Q1本格リリース
重要な視点は、もちろん未来である。ICOが初期の資金調達手段であることから、過去は当然浅い。未来といっても不確定・不安定な3年後、5年後はただの占いだ。緻密に計画された1年程度のロードマップを探したい。中には3年間の月次収益予測を出しているホワイトペーパーもある。しかしちょっと計算すればすぐ分かる。EXCELで横に1.2を掛けているだけだと。
C:ICOの過去
未来に投資するICOの過去に、何を考えればいいのか。同じ業界の、或いは同じプラットフォームを利用したICOの過去実績だ。業界問わずブロックチェーンの冠をつければ値がつく時代はいつかは終わる。デジタル広告系のICOだとBAT(BasicAttentionToken)やPapyrusあたりか。
広告系仮想通貨BATの価格トレンド(ビットコイン建て:BAT/BTC)
せっかく競合プロジェクトを調べるなら、価格と合わせて確認しておきたい。情報ソースとしては CryptoCurrency Market Capitalizations / coingecko / ICOCountdown / Coinschedule / ICOStat などなど。
- どの取引所で売買されているか (英語表記はVolume by Exchange Market等)
- 時価総額:Market Cap
- 取引高:Volume
- どの通貨で取引されているか:Volume by Currency
D:ICOの未来
ここで考えるのはプレセール、クラウドセール情報だ、ここは簡単簡単。
- 2017年10月24日
- クラウドセールは 30 日間
- トークンの供給が尽き次第終了
さて「組織&プロジェクト」「ICO」と「過去」と「未来」を分けたところで、4つのマスが埋まった。最後に、プロジェクトの現在地を把握しておきたい。こうすることで6マスが埋まり時間軸としては網羅的。
E:Qchain組織/プロダクトの現在
紙ペラ一枚の現在か、既にβ版や一部利用可能な現在か、この違いは大きい。GitHubでソースが公開されていれば、コードの良し悪しをの判断にもなる。Qchainにとっての現在、
α版リリース済み
- URL:https://demo.qchain.co/
- Username: demouser
- Password: demopassword
現在、Qchianサービスのα版が完成し、いくつかのユーザーインターフェースが公開されている。ICOにおいて目に見える何かがあるか、0か1の違いは大きい。プレセール終わる頃に、ナニかが出来上がる、らしい。というパワポ企画書レベルのICOに参加したら、詐欺にあう。
F:ICOの現在
「ICO」の「現在」とは、プレセール中の販売状況に該当する。刻一刻と変わるためん、ホワイトペーパーには記載される情報ではない。オフィシャルサイトなどで随時チェックしておこう。
5.プロジェクトの拠点と業界(WHEREの視点)
ホワイトペーパーにおける”場所の視点”では、以下の2点
1.Qchainの拠点
米国。またチーム体制のうち1拠点だけカントリーマネージャーらしき人がいる。その国は中国だ。米国(英語圏)と中国を視野にいれたプロダクト開発である。
拠点の視点は最近は特に重要だ。例えば中国では9月にICOが全面禁止となったように、お上の規制対象となると値がつかない可能性がある。またプロジェクトが見据えるマーケットとしても重要だ。英語で書いてあるからといって英語圏全域をカバーしているとは限らない。
2.Qchainが戦う業界
広告。主にデジタル。GoogleのAdsenseをベンチマークしており、アドネットワークを主戦場としている。業界を知ると同時に、自分の目の届く業界のICOに参加したい。いくら話題性が高くとも門外漢の業界へ投資するのは控えたい。業界はLandscapeで調べておこう。
以上、仮想通貨ICOのホワイトペーパーを読む方法としての6W3Hの活用法の前編。後編に続きます。
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