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奴隷と紛争ダイアモンドから考えるイーサリアム

中央管理者型WEBサービスの2つの欠点

イーサリアム(Ethreum)は、分散型アプリケーションのためのプラットフォームです。オフィシャルの言葉を援用すれば

 「次世代のスマートコントラクトと非中央集権型アプリケーションのプラットフォーム」  

です。もう少し噛み砕くと、ブロックチェーンの上で動くプラットフォームのこと、ビットコインのブロックチェーンとは別の独自のブロックチェーンを持つ、スマートコントラクトを実行する基盤となるもの、次世代型の非集権型の契約や価値の取引をするためのプロトコルと言えるかもしれません。

考案者ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)によって生まれたイーサリアムは、2013年からオープンソースプロジェクトとして開発が進んでいます。分散型アプリケーションの対極にあるのが中央管理システムです。いま見て頂いているこのサイトのドメイン(ango.tokyo)には、ドメインを管理する中央管理者(ICANN)がいて、世界中のドメインを管理しています。

みなさんがよく使うSNSのFacebook、LINEは世界中の人たちが自由にコミュニケーションを取れる仕組みですが、中央管理者(サービス提供社)によって交流の場が提供されています。このように、さまざまなWEBサービスは中央管理者(システム)の存在のもとに成り立っています。便利なWEBサービスですが、ある側面から見ると欠点がないわけではありません。

 プライバシー保護の問題: わたしたちはAMAZONで買い物をするときに、多くの個人情報を提供しています。それはAMAZONが「信頼」できる取引相手だと考え、手渡したデータを不正利用しないだろう信じているからです。もしくは、個人情報全てを渡してでも得られる利便性(買い物の便利さ、価格の安さ等)を感じているからかもしれません。しかし、個人情報を渡したAMAZONが絶対に不正利用しないとは限りません、ハッキング被害によってプライバシー情報が漏洩するリスクも抱えています。

 可用性: メール、SNS、WEB決済、どのようなWEBサービスでも、サービスの存続は中央管理者にかかっています。その中央管理者が潰れれば、終わります。また、中央管理者が存続していても中央管理者に障害が発生すればデータ消失やサービス停止の危険が避けられません。

イーサリアムが克服したもの、そしてその方法

イーサリアムはこれらの欠点を克服するサービス基盤といえます。これはビットコインと同じように「ブロックチェーン」と呼ばれる技術をベースにP2P(ピア・ツー・ピア)型システムを採用し、中央管理者を必要とせずにFacebookやLINEと同様のサービスを実現する仕組みです。

これまで中央管理者はセキュリティを何重にもかけ、膨大な投資を行ってこの弱点から身を守ってきました。これからはのサービス提供者は自らが中央管理者の役割を降り、イーサリアムを採用することで高コスト体質から脱却できるという利点があります。

イーサリアムとブロックチェーンの革新性

この中央管理者を必要としないP2P型の基盤を作ったのはイーサリアムが最初ではありません。通貨システムにおいて兄役にあたるビットコインの考案者ナカモトサトシ(Satoshi Nakamoto)によって発明されました。この発明は「ビザンチン将軍問題」と呼ばれる分散コンピューティングにおける難問に初めて実用的な解を与えるものでした。

この問題は、不特定多数で構成され、かつ悪意のある人が含まれる中で、各々の情報交換によって正しい合意形成が出来るか?という問題です。ナカモトサトシは、ピア・ツー・ピア型システムにプルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work)とブロックチェーン(BlockChain)という仕組みを導入することで、このビザンチン将軍問題を解決し、ビットコインという通貨システムを実現しました。

特筆すべき点は、ブロックチェーン技術の1つの応用アプリケーションがビットコインであるに過ぎないという。ブロックチェーンの革新性は中央管理者が存在しないP2Pネットワーク上で「合意形成」を行うことを可能にした点です。ブロックチェーンの衝撃と言われているのは、ビットコインではなく、それを支えるブロックチェーン技術の応用可能性についてです。現にブロックチェーンによる合意形成を応用した様々なサービスが生まれはじめています。

イーサリアムが担うブロックチェーンの応用可能性

従来の中央管理者型サービスの欠点を克服してたブロックチェーンを企業が採用しようとした場合、どのようなアプローチがあるでしょうか。

  • 1つは、企業が自ら新しくブロックチェーンを構築してそれを使うこと
  • 2つは、ビットコインのような既存のブロックチェーンを利用して、その上でサービスを構築すること
  • 3つは、汎用性の高いブロックチェーンネットワークを利用し、その上でサービスを構築すること

の3つが考えられます。新しいブロックチェーンを1つの企業が自ら作り上げるのは、相当な参加者数を必要とするために非常に敷居が高いです。もしニッチなサービスであれば参加者数が集まらない可能性があり、ピア・ツー・ピア型ネットワークが成立しません。2つめは、ビットコインのために作られたブロックチェーンはビットコインの設計に合わせる必要があり、通貨以外のサービスで利用するには自由度が低すぎます。

そして、3つめがイーサリアムの設計思想です。ブロックチェーンを利用した分散型ネットワークを構築するための障壁を取り除くためのプラットフォームサービスです。イーサリアム独自のブロックチェーンネットワークを構築し、それを大小さまざまなサービスが利用します。それはもちろん、通貨決済システムとしても利用できます。また、通貨の決済という取引形態ではなく、さまざまな処理(トランザクション)でも利用できます。

ブロックチェーンの事例

ブロックチェーンは、時に大げさに「インターネットに次ぐ技術革新」として言及される時さえあります。イーサリアムの活用に共同で取り組む企業連合「エンタープライズ・イーサリアム・アライアンス(EEA)」には米銀JPモルガン・チェース、オランダのINGグループなど金融機関が名を連ねています。金融業界においてはいち早くフィンテック(FinTech)領域におけるブロックチェーンの活用が研究されてきました。金融業界以外でのブロックチェーンの活用としてはいくつかユースケースが出始めています。

GOLEMhttps://golem.network/index.html

アメリカのGOLEM(ゴーレム)は、分散型ネットワークのプラットフォームイーサリアムに基づいたピア・ツー・ピア型のコンピュータシェアリングシステムです。GOLEMのネットワークに参加する個人PCやデータセンターにある高性能コンピュータのリソースをシェアし、高い負荷がかかる計算をネットワーク上で解決します。

Provenancehttps://www.provenance.org/

イギリスのProvenanceが目指しているのは、原材料から最終消費者までに届くまでのサプライチェーンの透明化です。例えば、企業(小売や製造業)が製造方法に関して透明であること証明できますし、また消費者側は購入する商品が奴隷など不当労働行為の行程によって作られていないかをチェックできるでしょう。

Everledgerhttps://www.everledger.io/

Everledgerは、ダイアモンド取引を透明にすることを目指しています。ダイアモンドは、ブラッド・ダイヤモンド=紛争ダイヤモンドと呼ばれ、テロ組織の資金源になっているからです。ダイアモンド業界は、採掘し、研磨、そして流通まで不透明な部分が多いマーケットです。ここにブロックチェーン技術を持ち込み、ダイアモンドの各プロセスに「不法ではない」という承認プロセスを挟むことによってブラッド・ダイヤモンドを排除しています。既に100万個以上のダイアモンドをデータベース化しているといいます。

また、これ以外のイーサリアム(に限らず)を支えるブロックチェーンは不動産登記、健康データ、文章管理、貿易や法律関連に応用され、今後ユースケースがより一層出て来るでしょう。

 

イーサリアムと内部通貨:ether

イーサリアムでは「eher(イーサ)」という独自の内部通貨が存在します。仮想通貨の取引所にあるイーサリアム(ETH)はこのetherのことです。ブロックチェーンの技術的な応用と投資対象としてのイーサリアムは文脈が異なるため、ここでは割愛しますが、ビットコインと同様に採掘者による採掘の報酬としてEtherが発行される点などはビットコインと同じです。Etherはスマート・コントラクトを履行するための手数料として用いられています。また、イーサリアムの価格は以下のようにこの1年間で大きく上昇しています。これはイーサリアムへの期待といっていいでしょう。